古文で和楽(J-POP)

古語訳した歌詞と日々の思いを綴るブログ

ゑむ八七/【米津玄師「M八七」】

ゑむ八七    

遠き空の星がいたく輝きて見えしかば

我はわななきながら さが光を追ひたりき

欠けたる鏡の中 ありし日の我を偲びたり

強くなりにしがな ことごとくをふりさけたりき 

君は風に吹かれて 翔ける雲雀仰ぎて

長く短き旅をゆく 遠き日の面影

君が願いなば 其れは強くいらへを遣りぬべし

今はゆめゆめ恐るまじ 無常を知るただ一人にあれ

 

やがて枯るる花が 最後に我へと語りかけき

「姿見えなくとも 遥か末で 守りたる」と

然り君は胸ふたがれて やつれ移ろふ心根

物語の始まりは 微かな寂しさ

君の手が触れし 其れは引き合ふ孤独の力なば

誰がいかに奪ふるものぞ 求めあはむ命果つるまで

輝く星ぞ言う 木の葉の遠くより

君はただうちまもる 行く末を想いつつ

我らは進む 何も知らずに彼方の向こうへ

君が願いなば 其れは強くいらへを遣りぬべし

今はゆめゆめ恐るまじ 無常を知るただ一人にあれ

ただ笑まふべし かの星のように

無常を知る ただ一人にあれ

 

*「~にしがな」ー願望の終助詞。「〇〇したいものだ」の意味。ここでは「なりたい」と訳す。

*「~ぬべし」ー確述の助動詞。強意「ぬ」+推量「べし」で「きっと〇〇はずだ」の意味。ここでは「きっと返事を送るはずだ」の訳。

*「ゆめゆめ~まじ」ー「ゆめゆめ~禁止表現」で「決して〇〇してはいけない」の意味。ここでは「決して恐れてはいけない」の訳。

*「無常」ー仏教用語で「全てのものは必ず絶えず移り変わってゆく」という定めを説く言葉。

*「孤独の力」―谷川俊太郎氏の詩「20億光年の孤独」の引用と思われる。本来「孤独」は「独り居」などと翻訳すべきだが、原文固有の詞として改めないこととした。

 

 というわけで、「古文で和楽」第一回は米津玄師さんの「M八七」を使わせて頂きました。

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 この翻訳においては随分意訳を施したように思います。米津さんの詩がとにかく本当に良いんです…!少年時代のヒーローへの純粋な憧れ、大人になった今でこそわかるヒーローの悲哀。それでも変わらない微笑をたたえて地球を救うウルトラマン。そういった、今時を重ねてきたからこそ見える「ウルトラマン」というヒーロー像を、すごく的確に繊細に描いていて、なんとかこの詩の情景を壊さずに古語に出来ないかと頭を捻りました。

 

 特に「翻る帽子」や「痛み」についてはかなり悩みました。単純な「冠」「烏帽子」は「少年時代に見上げた空」の背景には文化的に合いません。「冠」などは大人の装束です。また、これは貴族の文化であり平民にはそもそも縁のない話です。ウルトラマンは貴族とか平民とか関係なく、全ての子供のヒーローであってほしい。そこで、子供が高く昇ってゆく小鳥に目を奪われる様子をイメージして「雲雀」と改めました。

 また、「痛み」も本来「憂き目」などと訳すはずですが、ウルトラマンの感じる痛みはもっと外側に向かっている気がするんですよね。自分自身の体験する悲しみやつらさよりも、世の中の儚さ、どうしようもなさを表したくて「無常」を選んでいます。

 

 そして、一番困ったのがタイトル。本当に困りました。Mってどう扱えばいいんだ…そもそもウルトラマンの星は本来「M78星雲」であるはず…。そこで調べたところ、これは意図的に曲のタイトルにするときに変えたらしいですね。真意は定かではないですが、M87はゾフィーの必殺技の名前の一部です。ならばここは「ゑむ(笑む)87」とすれば、映画のゾフィーのイメージやウルトラマン自体のアルカイックスマイル、詩の「微かに笑えあの星のように」などと掛けられる!!と思い、「ゑむ八七」に決定しました。めでたしめでたし。

以上、今回はここまで。また次回!